近年の葬儀事情についてのこのインタビューは、私たちが普段考えないような視点から興味深い洞察を提供しています。

厚生労働省の「人口動態統計(確定数)」(2023年)で、年間死亡者数は過去最多となる157万6016人と発表された。著名人の訃報も続き、「死」を身近に感じる機会も増えている。葬儀屋でアルバイトをするお笑いコンビ「ドドん」の安田義孝さんに、葬儀屋バイトの実情をうかがった。

◆相方のキャラに合わせて葬儀屋バイトをスタート

今回話を聞いたのは、お坊さん×葬儀屋コンビとして活動するお笑いコンビ「ドドん」の安田さん。芸人としての嗅覚が働き、8年ほど前に葬儀屋バイトをはじめた。

「きっかけは、相方(石田芳道さん)がお坊さんだからです。それに合わせて葬儀屋か花屋でバイトをしようと思ったんです。その後、芸人の先輩から紹介してもらった花屋は落ちちゃったんで、葬儀屋バイトをはじめました(笑)」

葬儀屋には、日程の調整や斎場の手配、葬儀当日のサポートといった仕事のほか、夜勤もあるという。仕事内容は、亡くなった方のご遺体をストレッチャーに乗せて病室から霊安室まで運び、遺族の方にバイト先の葬儀屋を勧めるというもの。安田さんは、主に後者を担当している。

「夕方6時から翌日の朝9時まで待機して、仕事が発生したら指定の病院に行きます。葬儀屋は地域密着型の商売なんで、それぞれの家に決まった葬儀屋がいるんですが、たまに決まっていない場合もあります。その時に、『葬儀はうちでいかがでしょうか?』と売り込む感じです」

基本給は4000円で、稼働時間は別に時給が発生する。まったく電話が鳴らない日もあれば、1日に3回出動する日もある。

◆「葬儀でミスしたら一生恨まれる」社長の教え

誰でも一度や二度はバイト中に失敗したり、大目玉を食らったりすることはある。安田さんの場合は、バイトをはじめたばかりの頃に起こしたトラブルが今でも忘れられないという。

「当初はスタッフとして葬儀に参加していました。1発目が、ある著名人の音楽葬で、参列者も300~400人ぐらいいて、楽団の生演奏もあるような大がかりな葬儀で。僕は、斎場内の入れ替え作業中に、参列者を休憩所へ案内する役でした。でも、早くお焼香をして帰りたい人が扉の前に並びはじめて……」

作業の終わり時間が見えなかったため、休憩所で待つよう案内したが、聞く耳を持ってもらえなかった。そのうち、お焼香が始まったと勘違いした参列者が集まり、30~40分ほど経ってから開場した時には、かなりの数の参列者が集まり、大騒ぎになってしまった。

「その現場の前に、社長から『葬儀でミスしたら一生恨まれる』と教えられてたんです。お葬式は亡くなった人と会う最後の機会で、ただでさえ悲しみに包まれているのに、ミスが起こると、怒りがすべて葬儀屋に来るんだと。だから、『失礼なミスは絶対するな』と言われた直後だったんで、本当にめちゃくちゃへこみました」

◆まさかの「ご遺体の取り違え」を経験

葬儀には何人ものスタッフが関わるため、他の人のミスで現場が混乱することもあるという。不謹慎と思いながらも、つい噴き出してしまうという思い出が、まさかのご遺体の取り違えだ。

「葬儀場にはご遺体を安置する部屋があって、葬儀のはじまる前に、スタッフが安置室から斎場までご遺体を運びます。ある日の葬儀で、いつもと同じように斎場までご遺体を運び、ご遺族が最後の別れをしようと顔を見た瞬間に『誰、この人?』と言われたんです。

安置室では、ご遺体に名字と下の名前の一文字目が書かれた名札が付けられるのですが、安置室の方がご高齢で苗字が同じだったので間違えたようでした。

遺影とまったく違う方だったので、スタッフ総出で本来のご遺体を探して入れ替えました。予想外のトラブルに、みんなで『急げ!』とか言いながらご遺体を探してて、『なんか、ドリフの転換みたいだな』と思っちゃいました(苦笑)」

◆コロナ禍の異様な光景。iPadを使って遠隔で最期のお別れ

コロナがはじまった頃、安田さんのバイト先は、コロナで亡くなった方を担当することになった。

「コロナ関連のニュースが出はじめたばかりの頃で何もわからなかったし、1件1万円の特別手当が出ると聞いたので、やることにしました。病院に行くと、そこには滅多に会えない先輩がいて、開口一番『芸人なんだから、この案件は受けちゃダメだよ』って言われたんです。

その先輩は葬儀のプロフェッショナルで、SARSMERSの現場に出ていて、実際に両方の感染を体験されていたんです。顔も広くて、中国の武漢に住む友人から話を聞いていたらしく、『コロナはSARSMERSよりも大変な感染症で、これから日本でも広がるし、街もロックダウンするし……』といろいろ聞かされました」

それまではスーツ姿で病室へ行き、顔に打ち覆い(ハンカチのような布)をかぶせたご遺体をストレッチャーに乗せて霊安室まで運んでいたが、この時は違った。

「先輩のご厚意で、僕は防護服を着たまま霊安室で待機しました。ご遺体は先輩が一人で運んでくださったのですが、棺には目張りがしてあって、火葬場に届けるだけの状態になってました。

あと、感染防止のためにスタッフが一人だけ病室に入り、iPadにお顔を映して、遠隔でご遺族と最期のお別れをしてもらうように変わりました。コロナの恐ろしさを教えてもらってからは、コロナ以外で亡くなったご遺体だけを担当するようになりました」

芸人としても危機感を抱いた安田さんは、知り得た情報を所属事務所に伝え、ライブを中断するよう直談判。2020年に入り、浅井企画は他の事務所に先駆けてライブを自粛した。

◆葬儀屋バイトだからわかる、小規模葬儀の落とし穴

近年、増えているのが家族葬などの小規模なお葬式だ。親族や知人を招く一般葬の平均相場は約200万円と言われているが、家族葬になると大きくコストダウンできる。そのため、小規模葬儀がブームとなることは仕方ないが、注意が必要だと指摘する。

「中には20~30万という低価格のプランもあります。テーブルにお位牌を置くだけといった本当にシンプルなものもあって、寂しいという理由から、お花などのオプションをどんどんプラスしていき、結局200万円近くになったという話も聞きます」

また、アレコレ考えずにパッケージ化されている葬儀屋に頼んだ方が安く済んだという後悔の声も聞こえたという。では、低価格でも後悔しない葬儀をするには、どうしたらいいのか?

「一度、参列者が奥さんだけの葬儀を担当しました。テーブルに香炉とお位牌が置かれ、喪主の奥さんがお焼香をしたら終わりっていう。僕的には寂しさを感じたのですが、ご遺族が納得されてるなら規模や価格は関係ないんだな、とも思いました」

◆派手じゃなくていい「理想のお葬式」

様々な葬儀を見ることで、「葬儀は安ければいいワケではないが、高いからいいワケでもないと気づいた」と続ける。ご遺族とのやりとりをする中で、お金をかけた葬儀に共通する、ある特徴を見つけたそう。

親孝行できなかった人ほど、両親の葬儀にお金をかけがちですね。たぶん、生前に何もしなかったという罪悪感があるのでしょう。反対に、質素な葬儀を希望されるのは、長く一緒の時間を過ごしてきた場合がほとんどです。よく、『本人も豪華にしなくていいって言ってたから』と言われます」

そこから、「お金をかけるからいい葬儀」ではないと思うようになったという安田さん。さらに、参列者の様子などもからも「いいお葬式」の輪郭が見えてきたという。

「親しい人が亡くなって悲しいはずなのに、『あいつ、昔こんなことしたよな』って昔話で盛り上がっているのを見ると、いいお葬式だなと思います。お葬式って、残された人の気持ちを慰めるためにすると思っているので、規模とか派手さよりも、参列者が後悔のないお別れができるかといったことの方が大事なんじゃないかなと思いました。

いつかはわかりませんが、自分のお葬式も、来てくれた友人たちが笑顔で見送ってくれるような、そんなお葬式になればいいなと思いました。そのためにも、まわりの人を大切にしながら、一日一日をきちんと生きようと思います」

<取材・文/安倍川モチ子 撮影/林紘輝>

【安倍川モチ子
東京在住のフリーライター。 お笑い、歴史、グルメ、美容・健康など、専門を作らずに興味の惹かれるまま幅広いジャンルで活動中。X(旧Twitter):@mochico_abekawa

葬儀屋でアルバイトをするお笑いコンビ「ドドん」の安田義孝さん


(出典 news.nicovideo.jp)