必死になっている。

◆紅白の人選に不満が噴出

 大みそかの『第73回NHK紅白歌合戦』の人選について「若者向けの人選すぎる」という不満の声がやまない。韓国系アーチストが5組で、ジャニーズ事務所勢が6組出る。若者を意識した人選なのは間違いない。もっとも、若者に観てもらうための人選は1970年代80年代から行われていた。若者にも観てもらわないと、受信料の公平負担を目指すNHKは困るからだ。

 紅白が若者を無視していた時代は沢田研二(74)らがいたザ・タイガースなどグループサウンズのほとんどを排除した1960年代までだ。たとえば1979年の第30回にはサザンオールスターズが初出場し、『いとしのエリー』を歌った。世良公則ツイストは2回目の出場で『燃えろいい女』を披露した。

 どちらのグループも当時の中高年以上には馴染みが深い存在とは言い難かった。サザンは「コミックバンドか」と誤解されていたくらいである。

 それでも中高年以上から不満の声は上がらなかった。なぜか? 音楽が共有されている時代だったからだ。順を追って説明させていただきたい。

紅白歌合戦懐メロ大会なのか?

 今年の紅白には1980年代歌手の大挙出演を期待する声があったようだが、それは80年代1940年代から50年代の歌手が多く出演するのと同じことなので、考えられなかった。

 1940年代から50年代の歌手は故・近江敏郎さんや故・藤山一郞さん、故・越路吹雪さんに故・淡谷のり子さんら。この面々が80年代の紅白に出ていたら、もはや『懐かしのメロディ』で紅白とは別番組になってしまった。

 紅白の出場歌手の選考基準は「今年の活躍」「世論の支持」「番組企画にふさわしいか」。毎年同じである。仮に懐かしい歌手が大挙出演したら、今度は若者から不満の声が噴出するに違いない。若者側が紅白不要論を叫んだのではないか。

 ただし、若者に観てもらいがたいために紅白側が売れてもいないアーチストを出したらアンフェアである。そこで今年の初出場歌手の売れ行きを簡単に確認したい。まずは紅組の5組。

◆初出場歌手の選出は理にかなっているか?<紅組編>

「IVE」は韓国の6人組女性アイドルグループで、うち1人は日本人10月リリースした『ELEVEN -Japanese ver.-』はオリコンの週間チャートで4位になった。

「ウタ」はアニメ映画ONE PIECE FILM RED』のキャラクター。歌唱担当は覆面アーチストのAdo(20)である。8月に出たアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』は同チャートで2位になっている。

Aimer」はアニメ鬼滅の刃 遊郭編」(フジテレビ)のオープニングテーマ「残響散歌」とエンディングテーマ「朝が来る」を歌った女性アーチスト。年齢は非公開。1月にリリースされた『残響散歌/朝が来る』は同チャートでトップになった。

緑黄色社会」は男女4人組のポップロックバンド11月に出た『ミチヲユケ』は同18位に。この曲はドラマファーストペンギン!』(日本テレビ)のエンディングテーマだ。「LE SSERAFIM」は韓国の5組女性アイドルグループ。うち2人は日本人である。10月発売のミニアルバムANTIFRAGILE』はBillboard JAPAN週間アルバム・セールス・チャートで1位になった。

◆白組の初出場歌手は?

 みんな売れている。白組の初出場5組もそうだ。その5組とは次の通り。

 3人組ロックバンドSaucy Dog」、韓国で行われたオーディションで生まれた日本人11人のボーイグループ「JO1」、22歳のシンガーソングライターVaundy」、7人組ボーイグループ「BE:FIRST」、ジャニーズ事務所所属の7人組アイドルグループ「なにわ男子」。中高年以上の認知度は高くないかも知れないが、若者の間ではよく知られている。

 逆にベテランの紅白常連組には今年のヒット曲がない人もいる。それどころか、最近ずっとヒットがない人も。若者側にはこちらのほうが不思議かも知れない。

 なぜ、紅白の人選が物議を醸すようになったのか? まずSNSの普及が影響しているのは間違いない。同じ意見の人が連帯するようになった。

◆「#紅白見ない」が生まれる時代背景

 ツイッターで「#紅白見ない」がトレンド入りした。人選に不満のある人たちが一斉に声を上げた。「#ちむどんどん反省会」と一緒の構図である。悪いことでは決してない。

 そもそもSNSの目的は意見交換のためでもあるからだ。マスコミにだけ発言権がある社会のほうが不気味で不健全だ。もちろん、公序良俗に反する発言は誰であろうが許されない。

 SNSより大きいのは音楽が共有されない時代になったこと。若者の間で人気の曲を中高年が知らないから、軋轢が生じる。その逆もある。音楽に関すると、世代間にフォッサマグナが出来てしまった。

 なぜか。1980年代までなら、子供の求めで渋々『ザ・ベストテン』(1978~1989年)などの音楽番組を観た親たちがサザン世良公則&ツイストジャニーズ勢の光GENJI、男闘呼組らを知った。その音楽を理解する親もいた。

◆音楽は「共有」から「一人で聴く」へ

 一方、1979年に発売された携帯型音楽プレイヤーウォークマン」(ソニー)と類似商品によって、音楽を一人で聴くという文化が徐々に浸透し始める。

 かつて音楽はステレオラジカセで聴くのが当たり前だったが、一人で聴くようになり、親子間や家族内で音楽が共有されなくなった。音楽が世代を超えにくくなった。

 昭和期なら親が子供の好きなアーチストを知っているのは、当たり前だった。一緒に聴くことがなくても音漏れするからだ。今、子供の聴いているアーチストを知る親はどれだけいるだろう。

 有線放送を流す喫茶店や飲み屋も減少の一途。かつては有線放送が流れる喫茶店に長居するだけでヒットしている曲が自然と分かった。聴きたくなくても若者向けの曲が耳に飛び込んできた。今は違う。

 携帯型音楽プレイヤーデジタルの「iPod」(2001年)に進化し、より便利になった。さらに音楽は「iPhone」(2007年)などのスマホで聴けるようになり、共有するものでなく、個人が所有するものになった。例外的に共有するのは同世代の仲間や友人くらいである。

 音楽が共有されない時代にどの世代も納得する紅白の人選を行うのは至難だ。若者の間で「IVE」などがいくら売れていようが、それを中高年以上が知るのは簡単ではないからだ。紅白の人選について林理恵メディア総局長(旧放送総局長)は「今年のミュージックシーンで活躍された、多彩で豪華な方に出場いただく」と説明し、出場歌手の偏りを指摘する声があることについては「新しい知識を仕入れる機会にもなれば」と語った。

 本音だろう。もはや世代を超越して音楽を共有できる可能性が残された場は紅白くらいなのだ。

◆通常の音楽番組も大苦戦

 音楽が共有されないから通常の音楽番組も大苦戦を強いられている。11月11日テレビ朝日ミュージックステーション』はコア視聴率(13~49歳の個人視聴率)こそ4%と高かったが、4歳以上の全てを表す個人全体視聴率は3.7%と振るわなかった。50歳以上にあまり観られていないのである。なお、民放もNHKも実務では使わない世帯視聴率は6.0%だった(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 この日の『Mステ』にはRADWIMPSあいみょん(27)、LiSA(35)、緑黄色社会らが出演した。いずれも若者には人気の面々で、だからコア視聴率は高かった。しかし50歳以上の多くに敬遠されたのだ。紅白に限らず、音楽が共有されない時代に音楽番組で高視聴率を得るのは至難だ。

 共有されないからミリオンセラーも容易には生まれなくなった。世代を超えて聴かれないと、100万枚を突破するセールスは難しい。一般社団法人日本レコード協会が認定したミリオンセールスは2000年には宇多田ヒカル(39)の『Wait & See ~リスク~』や大泉逸郎(80の『孫』、KinKi Kidsの『フラワー』など18曲もあった。

 それが2010年にはAKB48の『Beginner』だけに。2020年は嵐の『カイトSnow Manの『KISSIN’ MY LIPS / Stories』など6曲あったが、昨年はゼロだった。

◆世帯視聴率で見れば

 紅白の昨年の視聴率(2部)は世帯が34.3%で個人が24.8%。世帯は過去最低だった。世帯視聴率は過去最低を更新すると見る。若者を意識した人選に対し、数が多く、世帯視聴率に大きな影響をもたらす高齢者(65歳以上)が反発するからだ。

 もっとも、NHKはもう世帯視聴率を使っていない。現在の標準指標は視聴者の性別や年代が細かく分かる個人視聴率だ。だから世帯視聴率が最低を更新しようが、NHKは気にしない。問題は若者が観てくれるかどうか。中高年以上から人選への不満をぶつけられ、若者も観てくれなかったら、NHKショックに違いない。<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニストジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立

番組公式ホームページより


(出典 news.nicovideo.jp)




tare

tare

馬鹿らし。デビューしていない奴が紅白にでるなんて論外なんだよ!!!!