いろんなことがある。

 放送中の金曜ドラマ妻、小学生になる。」(TBS系)が、残すところあと1回です。この作品は、死んだ妻が小学生の姿で戻ってくるというファンタジー。そこに、ネグレクト(育児放棄)のような社会問題も盛り込まれ、夢と現実が相まった不思議な雰囲気が特徴です。

 金曜ドラマといえば、前作の「最愛」は真犯人が誰かを巡る「考察ドラマ」として話題に。また、「リコカツ」では永山瑛太さんの「クセ強キャラ」が注目されました。さらに「俺の家の話」では、長瀬智也さんと脚本家宮藤官九郎さんの名コンビが、ハートフルな物語を繰り広げました。

 ただ、いずれの作品も、視聴率的には大ヒットと呼べるものではありません。今回の「妻、小学生になる。」も6~7%で推移しています。同じTBSの「日曜劇場」が数字も伴うヒット作を連発しているのとは対照的です。

 しかし、ここ数年の金曜ドラマには、視聴率だけでは計れないインパクトを感じます。独特の熱が伝わってくるような作品が多く、それもまた、伝統の力なのかと思わされます。

実は老舗の金曜ドラマ

 そんな金曜ドラマスタートしたのは1972年。途中、2年間の休止期間がありますが、その期間は「水曜ドラマ」として継続していました。日曜劇場1956年に始まったものの、1993年までは単発ドラマの枠だったため、連ドラの枠としては金曜ドラマの方が老舗というわけです。

 1970年代には「岸辺のアルバム」、1980年代には「金曜日の妻たちへ」3部作、1990年代には「ずっとあなたが好きだった」「高校教師」といったドラマ史に残る名作が生まれました。2000年からのいわゆるゼロ年代にも「世界の中心で、愛をさけぶ」や「花より男子」2部作などがヒットしています。

 とはいえ、2010年代以降は、記録より記憶というか、インパクトや熱で語り継がれるような作品が目立ちます。「リバース」や「アンナチュラル」などがその典型です。実際、休止期間を経て再開した1989年以降の「金曜ドラマ平均視聴率ベスト10」は、1990年代ゼロ年代の作品が独占しています。

 ちなみに、TBSにはもう一つ「火曜ドラマ」という人気枠があります。2014年に設けられ、「逃げるは恥だが役に立つ」「私の家政夫ナギサさん」などがヒットしました。この枠の成功に貢献した他、金曜ドラマ日曜劇場にも関わってきたプロデューサー・磯山晶さんが、ここ数年の3枠の違いについて言及しています。

 それによると「火ドラが女性主演のラブストーリー、金ドラは『命、絆』がテーマだけど基本的には何でもありで、日曜日は良質で王道のホームドラマ」とのこと。たしかに、火曜ドラマ日曜劇場は作品の方向性や狙う層が明確な印象です。しかも、ヒット作が多い分、失敗できないという空気感もより強い気がします。

 その点「基本的には何でもあり」という金曜ドラマでは、冒険を楽しんだり、新しいことに挑戦したりということがやりやすいのでしょう。そんな特性が大いに反映されたのが、2015年の「表参道高校合唱部!」です。

 平均視聴率は6%弱に終わった作品ですが、ヒロイン芳根京子さんをはじめ、葵わかなさん、永野芽郁さんという、後の朝ドラ主演女優が3人出演していました。他にも、志尊淳さんや高杉真宙さん、赤楚衛二さん、森川葵さんといった逸材が参加。先見の明が評価されることになります。

 かと思えば「最愛」のように、見逃し配信の全話総配信数で歴代最高記録を作った作品もあります。視聴率はといえば、10%超えは最終回のみ。まさに、視聴率だけが指標ではなくなりつつある時代を象徴する作品でした。

受け継がれる“攻めの姿勢”

 ところで、前出の磯山さんプロデュースを手掛けた「俺の家の話」について、「間違った人生を生き直す話」だと語っています。「私たちが見て育ったドラマ」には「どちらかというと間違っている人が主人公」のものもたくさんあったとして、「三億円事件の犯人とか」という例も挙げています。

 これは、金曜ドラマ1975年に放送された「悪魔のようなあいつ」を指すのでしょう。この枠には、半世紀にわたって「基本的には何でもあり」という攻めの姿勢が受け継がれているわけです。

妻、小学生になる。」もまさにそうです。もちろん、攻めたドラマを作るには、周到な準備も必要。小学生なのに、妻や母として振る舞うという難役を演じる10歳の毎田暖乃さんは、実に2年がかりという長期のオーディションで選ばれました。

 そういえば、金曜ドラマの代表作「ふぞろいの林檎たち」シリーズでも、最初に大胆なオーディションが行われました。落ちこぼれの若者たちを描きたいということで、主要キャラの1人を決めるにあたり「自分の容貌に不自由を感じている人」を募集したのです。

 その結果、中島唱子さんという個性派女優が誕生。このシリーズは、若い視聴者の圧倒的な共感を得ました。

テレビの未来とは

妻、小学生になる。」のオーディションも大成功だったようで、毎田さんの演技は高く評価されています。と同時に、彼女の演技をより自然に見せるための、大人の共演陣の演技も見事なものです。演出するスタッフもまたしかり。さらに言えば、ファンタジーには受け手の想像力も欠かせません。

 奇抜な設定を絵空事と否定せず、そこに没入して、ドラマ空間に身も心もゆだねる想像力。この作品には、受け手もまた、作り手の冒険をともに楽しんでいるような関係性が感じられます。

 なお、4月スタートの新作「インビジブル」は、刑事と犯罪コーディネーターが手を組むという超異色のバディーもの。これまた、インパクトや熱を感じさせる作品になることでしょう。

 ドラマに限らず、視聴率だけがヒットの指標ではないとされる時代に、テレビは突入しつつあります。金曜ドラマは、そんな未来を切り開く枠なのです。

作家・芸能評論家 宝泉薫

堤真一さん(2020年10月、時事)、石田ゆり子さん(2021年5月、時事通信フォト)


(出典 news.nicovideo.jp)