本当かな?

「樹海には自殺をしそこなった人々の集落が存在しており、そこは樹海村と呼ばれている」。インターネット上でこんな噂がまことしやかにささやかれるようになったのは、2000年代半ばの事だ。当時インターネット掲示板を中心にブームになっていた“ネット怪談”の一つとして世に出たこの噂には、やがて尾ひれがつき、樹海の持つ神秘的なイメージと共に都市伝説と化していった。

【写真を見る】怪情報“樹海村の事故物件”を潜入調査…実在した「樹海村」を緊迫のレポート

事実、樹海周辺の観光地として著名な「鳴沢氷穴」の地下には広大な空洞が確認されており、毎年樹海で行方不明になる者の多さも相まって、“あながち嘘ではない”という得体のしれない現実感がこの噂にはある。

■『樹海村』は実在する?

現在公開中の『樹海村』は、この怪談をベースにしたオリジナルの物語で、実際に樹海でロケを行っており、本物の風景のみが持つ画面の緊迫感が映画全体をスリリングなものにしている。

物語は、天沢家の次女の響(山田杏奈)と、長女の鳴(山口まゆ)が幼なじみの家の軒下で、古ぼけた“コトリバコ”を見つけるところから始まる。それがきっかけとなり彼女たちの周りで奇怪な現象が相次ぐようになり、やがてその強力な呪いに導かれるようにして樹海の奥へと進んでいくのだが、そこで彼女たちを待ち受けているものこそが“樹海村”なのだ。

このレポート記事の前編で、『樹海村』のファンプレゼントとして真冬の樹海にハーバリウムを作りにやってきた映画宣伝マンのKさんTさんは、東京への帰り道の途中、本作の宣伝プロデューサーであるSさんから奇妙な電話を受けた。

電話口のSさんは、「“樹海村の事故物件”という噂を聞いたんだ。なんでも、樹海の真ん中にある村に使用されていない大きな建造物があって、その背後はすべて樹海に囲まれているらしい。宣伝の手がかりになるかもしれないから調べてきてくれないかな」という。

東京へ戻りかけていた記者らは、踵を返してSさんの教えてくれたポイントに向かうことにした。

■謎の建造物を発見

航空写真を頼りに現地へと向かった我々は、雪の積もった樹海のなかを歩き、目的の地点へと歩みを進めた。

陽の傾き始めた樹海のなかは独特の空気感に満ちており、雪の反射と相まってどこか浮世離れした雰囲気を醸している。

しばらく歩いていると、先頭を歩くTさんが声をあげる。「広場みたいな場所に出ました」。

そこで我々を待っていたのは、樹海の真ん中には不釣り合いな、手入れされた広大な空間だった。

「地面が綺麗にならされていますね。ブランコ滑り台もあります」とKさんが、3方を樹海に囲まれた周囲を探索する。

すると視線の先に、鉄筋コンクリート造の大きな建物が見えた。「もしかして、Sさんが言っていたのはあの建物じゃないでしょうか。様子を見に行ってみましょう」。Tさんが先陣を切り、記者らもあとに続いた。これが“樹海村の事故物件”なのだろうか?

建物のなかを覗き込むKさんが首をかしげる。「あれは下駄箱ですよね。じゃあ、これは学校…」。

辺りを見回すと、「富士河口湖町立精進小学校」と校名が刻まれており、この建物は確かに小学校だった。

「だった」というのは、あとで知ったことだ。富士河口湖町の行政が以前開催したイベントの資料によれば、135年もの伝統を持つ精進小学校2011年に廃校となったものの、その後は学生のスポーツ合宿やトレイルレースなどに活用されており、夏場には富士山を見やる絶好のロケ―ジョンも相まって、多くの人が利用しているそうだ。

■“樹海村の事故物件”の正体は…

学校があるならば、もちろんそこには人々が暮らす町もある。小学校跡地を出た記者らが辺りを散策してみると、多数の民宿を発見した。

「樹海荘」、「岳心荘」、「若葉荘」…そのどれもが、青々とした木々をイメージさせるような、爽やかネーミングだ。

郵便局もありますね。精進郵便局…しょうじ、と読むようです」。スマホを取りだしたTさんが検索してくれた。

現在我々がいるのは、富士河口湖町の精進という集落で、精進湖観光協会が運営する公式サイトによれば、休業中のものを除いても10軒もの民宿が軒を連ねる“民宿村”だということだ。

そう、“樹海村の事故物件”の正体は、“民宿村の小学校”だったのだ。

この取材では、噂の真相を確かめるため急ぎ現地へと向かった記者らだったが、よくよく調べると、民宿村は富士山を間近にいただく絶景と、四季折々の自然や地元でとれた山菜料理をいただける、“隠れ里”といった趣のあるリゾート地だった。

「素敵なところだね、今度はプライベートで泊りに来たいな」と、スキーやスノボが趣味のKさんが、街並みを眺めながら笑う。

「山菜料理も魅力的ですし、景色のいい精進湖も近いようですよ。このまま泊まっていきたいなあ」とTさんは大きく伸びをした。

インターネット黎明期、噂が噂を呼んで拡散していった“樹海村”の都市伝説は、情報の少ない当時ならではの現象であり、それゆえに奇妙な現実感をもって人々の想像力を掻き立てたのだろう。

清水崇監督のイマジネーションによって、都市伝説とは形を変えたエンタテインメントとして昇華された『樹海村』は、ただ怖いだけではなく観客の心に余韻を残す、オリジナリティあふれるホラー映画となった。

結果、現地の様子に怖いものはなにもなかったが、我々は民宿村のアットホームな雰囲気に癒され、真実を知ることができた充足感と共に東京への帰路に就いた。

■『事故物件 恐い間取り』

東京に戻った記者は、取材メモを読み返しながら頭を抱えた。“樹海村の事故物件”の正体を知れたことは大きな収穫だったが、このレポートはホラー映画を観たくなるものにしなくてはならない。そのためには“事故物件”の写真が必要だ。しかし、取材で訪れた民宿村は、すでに正体が判明している。

そこで(なぜそれまで思い出さなかったのかは不思議でならないが)思い出したのが、昨夏に記録的なヒットとなり話題をさらった、松竹の『事故物件 恐い間取り』(Blu-ray/DVD発売中)だ。

しかし、こちらは『仁義なき戦い』の東映、あちらは『男はつらいよ』の松竹。共に長い歴史を誇る日本映画界の雄だ。「東映の映画の宣伝に、写真を貸してもらえますか?」と問い合わせるのは、かなり勇気がいる。

それに記事のタイトルが「【閲覧注意】怪情報“樹海村の事故物件”を潜入調査…『樹海村』は実在した」と来ている。怒られるであろうことは容易に想像できた。

だが同作の公開時、記者は松竹宣伝部のKさんが本物の事故物件リモートワークする模様をレポートしていた(この模様は記事になっているので、興味のある方は是非一読いただきたい)。

このご縁を頼りに、取材時に担当くださった松竹の方々へ恐る恐るメールを送信してみた。するとすぐに返信があり、「『樹海村』観ました!じわじわ迫りくる怖さですね。『事故物件 恐い間取り』についても触れていただけるとのこと、ぜひお願いいたします!」と、驚くほど前向きな返答をいただくことができた。

そして東映のSプロデューサーも、「おもしろいね、両方観てくれたらいいんじゃないかな」と、このアイデアを快諾してくれた。

よく考えてみれば、『仁義なき戦い』で菅原文太さんが演じた広能昌三も、『男はつらいよ』で渥美清さんが演じた車寅次郎も、共に社会のはみだし者ではあるものの、義理と人情に厚いという共通点があった。記者の脳裏には、銀座の東映本社と築地の松竹本社が手を取り合う光景が浮かんだ。

ありがとう東映、ありがとう松竹

それでは、大手を振って『事故物件 恐い間取り』を紹介しよう。

事故物件 恐い間取り』は、「事故物件住みます芸人」として活動する松原タニシの実体験をまとめた著書を原作に、亀梨和也が松原をモデルにした芸人役で主演を務めたホラー映画で、『リング』(98)でJホラーブームを起こした中田秀夫が監督を務めている。

芸人の山野ヤマメ(亀梨)はお笑いコンビを組んでいたがまったく売れず、コンビも解散してしまう。突然ピン芸人となり途方にくれるヤマメは、テレビ番組への出演を条件に「事故物件に住んでみろ」と無茶ぶりされ、殺人事件が起きた物件で暮らすことになる。様々な怪奇現象に遭遇したヤマメは“事故物件住みます芸人”としてブレイクしていくが、ヤマメがある時に見つけた事故物件には、想像を絶する恐怖が待っていた…。

発売中のBlu-ray/DVD豪華版(初回限定生産・3枚組)には、主演の亀梨と共演の奈緒、中田監督によるビジュアルコメンタリーほか、惜しくもカットされた劇中のお笑いコンビジョナサンズのコントをノーカットで収録している。そのほかメイキング、未公開シーン集、イベント映像集、安田大サーカスクロちゃんによる短編映像「事故物件 恐いカレシ」(全10話)を収録。さらに劇中お笑いコンビサイン入りポストカードセットが封入されるなど充実の内容となった。

事故物件 恐い間取り』の劇中に登場する“事故物件”は、そのほとんどが精巧なセットだが、綿密な取材に基づいているということで、ビジュアルの説得力は満点だ。さらに特典内では、ネットを騒がせた本編中の不可解な声の謎、撮影時の心霊現象(?)や裏話などが明かされており、ホラーファンならずとも必見と言えるだろう。

コロナ禍での『犬鳴村』大ヒットで幕を開けた昨今のJホラーブームは、昨夏の『事故物件 恐い間取り』でさらに拡大し、そのままの勢いで『樹海村』のヒットにつながっている。

映画館の営業にもたびたび制限がかかるなか、東映と松竹の両社が放ったこの3作品は、劇場で体感する映画の楽しみを思い出させてくれる、映画ファンにとってかけがえのないものになったように思う。

上映中の劇場で『樹海村』の恐怖に縮みあがったあとは、『事故物件 恐い間取り』のパッケージを爆音で再生して、残り少ない冬の夜を震えながら満喫してみてほしい。

取材・文/編集部


“樹海村の事故物件”とは?噂の真相に迫る/[c]Nori / PIXTA(ピクスタ)


(出典 news.nicovideo.jp)